永遠の少女のための将棋帖

― Japanese Chess for the Eternal Maiden

第六帖 王様のための小さなお城 ―― 囲いをおぼえましょう


歩なしの盤で、駒の速さと、取られる痛みを知りました。

きょうは十八枚の歩を盤に迎えもどして、ふつうの将棋にもどってきます。壁のある盤でまっさきに覚えたいのは、攻めの作戦ではありません。王様のための、小さなお城――「囲い」のお話です。

囲いって、なあに

囲いとは、金や銀を王様のまわりに寄せて作る、守りのかたちのこと。

将棋は、王様が詰めば負けです。どんなに華やかに攻めていても、自分の王様がひとりぼっちでは、たった一度の反撃で、すべてが終わってしまう。だから将棋を指す人はみんな、戦いがはじまるまえに、王様をお城へお連れするのです。

 

昔の人たちは、この守りのかたちに、それは美しい名前をつけました。矢倉(やぐら)、美濃(みの)、穴熊(あなぐま)、雁木(がんぎ)、銀冠(ぎんかんむり)――。かたちにはそれぞれ物語があり、いまも盤の上で生きつづけています。

お城づくりの、みっつの心得

どんな囲いにも共通する、やさしい原則がみっつあります。

ひとつ ―― 王様は、戦場から遠くへ

飛車が働く側は、いずれ戦いのはじまる場所。王様は、そこから遠いほうの端へ、そっと歩いていきます。花火は、遠くから眺めるのがいちばん安全なのです。

ふたつ ―― 金と銀は、王様のそばへ

第三帖でお話しした、六方を守る金と、身軽な銀。この子たちを王様のまわりに寄せて、屋根と壁を作ります。お城の材料は、いつだって金銀です。

みっつ ―― お城の歩は、動かさない

王様の頭の上に並ぶ歩は、お城の屋根瓦。ここを動かすと、屋根に穴があいて、雨風(相手の駒の利き)が吹きこんできます。攻めるための歩と、守るための歩。それを分けて考えられたら、もう立派なお城の主です。

はじめてのお城 ―― カニ囲い

さいしょに建てるお城は、「カニ囲い」がおすすめです。名前のとおり、蟹がちょこんと身を寄せたような、ちいさくて愛らしいかたち。

作り方は、かんたんです。左右の金をひとつずつ王様のほうへ寄せて、銀をひとつ上がって、王様のまえに小さな三角屋根をつくる――たったの数手で、王様のまわりに金銀の壁ができあがります。

カニ囲いは、横からの攻めには少し薄いのですが、なにより早く建つのが取り柄。はじめての一局で「囲ってから戦う」という順番を身につけるには、いちばんの教材です。

いつかの憧れ ―― 矢倉

そしてカニ囲いの先には、「矢倉」というお城が待っています。

王様が盤の左奥、角のいた場所のあたりまで歩いてゆき、金ふたつと銀ひとつが、王様を斜めに包みこむ。将棋のお城のなかでも、いちばん格式のある美しいかたちで、「将棋の純文学」と呼ばれることもあるほど。

じつはカニ囲いは、この矢倉へ育ってゆく途中のすがたでもあります。ちいさな蟹のお城が、いつか立派な櫓(やぐら)になる――そう思うと、最初の数手もいとおしくなりませんか。

「囲ってから、攻める」

きょうの帖で、いちばん持ち帰ってほしいのは、この順番です。

道をひらいて、お城を建てて、それから攻める。逸る気持ちをひと呼吸なだめて王様を囲う、そのしずかな数手が、あなたの攻めをのびのびと自由にしてくれます。守りとは、臆病さではなく、思うぞんぶん戦うための支度なのです。

―― 次の帖では、お城から送り出す最初の攻め――「棒銀」のお話を。


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